読みを言葉に

図書館へ通い続ける語彙力無子の日記

百瀬、こっちを向いては儚いラブストーリー


「百瀬、こっちを向いて」
著者:中田永一

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

 

 珍しく恋愛ものだと分かっておりながら読みました。

~あらすじ~
主人公の相原は、どこにでもあるクラスの「冴えないグループ」の人間の一人だった。
反して、幼馴染の宮崎は同じ高校の先輩で、学校の人気者。そして校内で同じく人気のマドンナ神林と付き合っていた。
ところが、帰り道に相原が見かけた宮崎は別の女性を連れている。それが、浮気相手であり同じ高校で相原の隣のクラスの女子、百瀬だった。
宮崎から神林を欺く為に、百瀬と付き合ったふりをしてほしいと頼まれ、そこから儚くも苦しい恋が始まる。


最初は宮崎の浮気と欺く為に平気で後輩を利用できる神経にただイライラした。
けれども、それ以上に上辺で動く二人の女性がね・・・。お互いに何も素知らぬ顔しているけれども、そんな訳ない。
女子は思っている以上に、考えているのだと諭された気がした。(自分も女)

作者は中田永一さんと書かれているが、別名は「乙一」さんともいう。
全然違う作風で書かれているけれども、書き方とか雰囲気は変わらない。どちらも私は好きです。

最後の回想もそうだけど、後味悪く終わらない所がまた良かった。
是非、映画の主題歌でもあった「こっちを向いてよ」を聴きながら読んで欲しい一冊です。

九番目の雲で日々の生活を大切に生きようと思えた


「九番目の雲」
著者:山岡ヒロアキ

九番目の雲

九番目の雲

 

 今回はアットホーム要素のあるストーリーです。


~あらすじ~
とある機械製造メーカーに営業として勤める吾郎。そして8歳になる息子と妻。
いつもの様に適当に日々を過ごしていた吾郎の会社には一種のパワハラが横行していた。そしてその被害者である同僚の大江が失踪してしまう。
大江の失踪の理由は横領が原因だと噂されていたが、実際は全く別の理由で、真実を知った吾郎は動き出す。そして同時に私生活の方にも荒波が・・・・。


結構考えさせられましたね。
きっとどこにでもあるのではないだろうかという家族の形でした。

一人暮らしをする吾郎の母。年齢が年齢だからと同居も考えるが、それを母は「この位の距離があるから上手くやっていけるのだ」と、拒否される。
そして気付くと進行していた認知症。それに罪悪感を感じている吾郎たち。
子供ながらに変化に気が付く息子。

ちなみに九番目の雲は入道雲の事を指しているらしいです。
これは最後、このストーリーを締めくくる重要な役を果たしております。


当たり前の日常が変わる事だってあるんだよなあ。
いつまでも家族が元気な訳じゃないものね、大切にしなきゃ。

ないたカラスでちょっと江戸へ


「ないたカラス」
著者:中島要

ないたカラス (光文社時代小説文庫)

ないたカラス (光文社時代小説文庫)

 

 なんだか現実味溢れる話に疲れてしまい、たまにはタイムスリップしようと読んでみました。表紙からして現代ではないですからね 笑

~あらすじ~
舞台は江戸時代。
鬱蒼とした林の中にある荒れ果てた寺に住む住職とその御付きの男。実は二人とも寺の関係者ではなくて、単に廃墟と化した寺に住み着くただの町人だった。
身分を偽り、千里眼を持つ住職として寺にあがめる事で、街から依頼に来る町人たちの悩みを解決しては小銭を稼いでいた。
しかし噂は広まりに広まり、遂には届いてはいけないような有名な人たちにまで広まり事件がまた大きくなっていく。


時代が離れていても、浮気や家庭の悩み等、時代が変わっても悩みは共通しているよなあ・・・と考えさせられる作品。
2人の過去は想像以上に重いし、絆が深い理由もまた重い。
でもいいなあ、どんな苦しい状況でも裏切らない絶対的な2人の友情が羨ましい。

けれどちょっと住職を演じる三太は操り人形過ぎるし、自分がない所がイラッとしたかな。優しいと優柔不断は違うし、ただの八方美人やんけーって部分もなかなかにね。

人間味が深くて読みやすい作品なので、少し現代に疲れた人にはお勧めですね。

北九州一家連続殺人の本当の恐ろしさを読んだ


「消された一家」
著者:豊田正義

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

 

初めてかもしれない、こういった本を読むのは。
半分は不謹慎だけども好奇心。
事件は2002年、私は当時小学校低学年だったのもあって、リアルタイムでの事件の記憶は残っていない。近年になって、類似した事件「尼崎連続殺人」が起こった事もあって注目された際にこの事件の存在を初めて知った。

当時のニュースで使われていたであろう相関図がヤフーで調べると出てくるけれども、事件の背景を知らない人間が観ると本当に意味不明。
何がどうやったら家族全員巻き込まれるの?誰も止められなかったの?娘は何がしたいの???って状態になる。

しかし、この本を読んで「洗脳の恐ろしさ」というものを知った。
いきなり恐喝したりする訳ではない、本当に少しずつ少しずつ心を支配していくのだ。
本を読んでいて死ぬほど当時の様子が伝わってきた。
この本を書いた作者が凄いのかもしれないが、当時の様子や、洗脳されていく過程が痛い程伝わってきた。

この中に出てくる、被害者の中で唯一生き残った少女の人生はどうなったのだろうか。
幸せに、とまではいかなくても、どこかで平穏に生きていてほしい。 




「田村はまだか」というタイトルのシュールさ


「田村はまだか」
著者:朝倉かすみ

田村はまだか (光文社文庫)

田村はまだか (光文社文庫)

 

インパクトのあるタイトル。
お得意の「ジャケ借り」パターンの一冊。
耳たぶを弄る男性のジャケットが印象的。

~あらすじ~
とあるバーに、小学校時代の同級生たちは集まっていた。
それぞれ家庭を持ったり、誰かに恋していたり、不倫したりと色々な人生を送っているなかでの同窓会。
そこには小学校時代に平凡だが、どこか皆を引き付けていた存在の田村が来ない。
人生の思い出話に花咲かせながら、今か今かと田村を待ちわびる。


一章ごとに主人公が変わるお話。
皆小学校の同級生で、人には言えない様な事も経験してきているというのが伝わってきた。あくまでもその話は小説上には書かれているものの、口に出して語っている訳ではなくて、一人で浸っているという状態だ。
そして章の話が終わる時には「田村はまだか」のセリフ。切り取り線のような役割をしているのが分かる。

しかも本当に不意打ちだなあと思ったのが、ジャケットの男性が田村ではないという事。「特段ジャケットが誰です」という説明書きがあった訳ではないのだけれども、男性が耳たぶを触るしぐさをしている所から判明しました!!笑


田村は何故来ないのか、いつ来るのだろうか。
最後まで気になりっぱなしのお話でした。

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